”日出処の天子”:山岸凉子
- 日出処の天子 完全版 1 (MFコミックス ダ・ヴィンチシリーズ)
- KADOKAWA/メディアファクトリー
- 2011-11-18
- 本
BLとは言えないのかもしれませんが、しかしBL的な素地を作った作品として、感想を書きたいと思います。
残念ながら電子書籍化されておらず、今手元に作品自体がありませんので、記憶からの感想になります。
そのため、曖昧な部分があるのはご容赦ください。
が、この作品に関してはそれこそ擦り切れるほど、セリフを暗記するほど読み込みましたので、記憶をだどりつつ話を進めたいと思います。
この作品を読んだのは、”LaLa”という雑誌で確か連載の初回から読んでいました。
最初にこのマンガを読んだときは、いろんな意味で衝撃を受けました。
まず、少女マンガにそれまでなかったような絵柄。
日本画を思わせるような繊細さ。
いわゆる少女マンガの乙女乙女したタッチとは全く違います。
また、カラーのページの配色は和服の色調を思わせる渋い色彩で、文字通り異彩を放っていました。
聖徳太子=厩戸王子、(または厩戸)が主人公ですが、この作品ではでは頭脳が明晰であるだけでなく、霊能力者および超能力者という人物として描かれています。
連載開始当時は14歳という設定ですが、すでに飛び抜けた知性があり、周りの大人を圧倒しながら政(まつりごと)に関わっています。
また、女性を凌ぐ美貌の持ち主です。
山岸凉子の開発した厩戸王子のビジュアルというのは、その後のマンガのこのテの登場人物の雛形になったといってもよのではないでしょうか。
線が細く、つり目の切れ長の目に薄い唇、尖った顎。
厩戸王子。美しすぎます。
このマンガによって、私の聖徳太子像は180度変わりました。
聖徳太子は日本の歴史上誰もが知る存在で、同時に7人の話を聞くことができた、などの逸話があり、また、律令制度や憲法を最初に日本に導入した人物です。
仏教を日本に広めることに貢献したことから、非常に頭が良く徳の高い偉人というイメージでした。
歴史上の偉人というのは、教科書などに載る都合上なのか、割と癖のない人格者といった雰囲気でサラッと説明されてしまいますが、天才とは極度に屈折したり、変人である可能性は十分にあるわけで、山岸凉子の描いた聖徳太子は、それまでぼんやりと持っていた聖徳太子イメージよりもずっと説得力がありました。
しかも、女嫌いです。
(それが高じて、ゲイです。)
ただ嫌いなだけではなく、「大嫌い!」
身分は高く(天皇の息子)、頭脳明晰で、美貌。
他に敵なしの厩戸皇子ですが、母親には超能力がバレており、そのため母親から恐れられ且つ疎まれ、本来与えてもらえるべき愛情をほとんど与えられていません。
そこで性格が思い切り屈折してしまったようです。
ツンデレの王道をいく性格です。
そんな屈折した厩戸は、真っ当を絵に描いたような男、毛人にとことん惚れます。
毛人もまんざらではないどころか、心の奥底では厩戸皇子に強く惹かれていますし、様々な場面で厩戸皇子と愛し合っています。
厩戸、童貞を失う。初体験の相手は毛人だったってことですね。
つまり、blでお約束のノンケの男を好きになってしまう悲哀がここにあるのです。(しかもツンデレ)
”日出処の天子”が昨今のBLと大きく異なるのは、最後がハッピーエンドではないことです。
連載を毎月(年に4回の発行だったかもしれません)心待ちにし、毎号何度も何度も読み返し、そしてすっかり厩戸に感情移入していましたから、なんとか厩戸には毛人と幸せになってもらいたかったですが、実際にはなんともやりきれない最後なんですよね。
「いつもわたしが真に欲するものは わたしには与えられない。」
この言葉が本当に切ないです。
「いつも」といっているのは、母親の愛情のことも含んでいるのでしょう。
この時代のマンガって、こういう悲劇的な終わり方が結構あったんですよね。
少女マンガの不朽の名作、”ベルサイユのばら”も最後は悲劇ですしね。
とはいえ、”日出処の天子”がマンガ史上の名作であるのは、最後がハッピーエンドではなかったからだともいえます。
厩戸王子、毛人の性格や時代を考えれば、ハッピーエンドにはむしろ無理がありますし、最後に厩戸が自分の母親によく似た目をした白痴の少女を妻にするというのも、厩戸という人物成り行きとしては納得のいくものでした。
決して嬉しくはなかったですが。
最後にかの有名な「日出処の天子〜」の文言が出てきます。
それにしても、このマンガでは女性はロクな描き方をされていません。
毛人の恋人、布都姫は凄い美人ですが、厩戸の恋敵であるせいか、なんとなくイラっとするんですよね。
男にはモテるけど、女からは何故か嫌われるタイプ。
毛人の実の妹で刀自古郎女も、兄に恋をし、あまつさえセックス(近親相姦)までしてしまい、さらにその子供を産んで大胆にも厩戸の子供と偽って育てるのですが、結局は幸せになれません。
大姫に至っては、厩戸に「滑稽」とまで言われる始末です。
ツンデレのゲイ(厩戸)がノンケ(毛人)との間で生じた葛藤のある恋愛。
女の登場人物はみんななんだかパッとしない。
こんなところに、”日出処の天子”のBL性を感じてしまうんですよね。
この作品をBLと呼べるかどうかは定かではありませんが、日本漫画誌に残る不朽の名作と言っても過言ではないと思います。
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